事前に三条の湯にて情報を得ていた通り,三条ノ湯から青岩鍾乳洞に行く道が数ヶ所ほど壊れていたため,辿りつくには多少の山歩きの経験と十分な注意が必要であった。(写真1,2)
青岩鍾乳洞を構成している石灰岩の露頭は,他の地域の石灰岩に比べて幾分青みを帯びており,これが青岩鍾乳洞の名前の由来となっているらしい。成分的な調査は行っておらず,またこれまでに行われたかどうかは不明であるが,後述する通り洞内に赤みを帯びたフローストーンがあったことから考えると,鉄分あるいはその他の金属成分を比較的多く含んでいるのではないかと推察される。洞口から入ってしばらく,「迷いの十字路」付近までの洞壁や転石も同様に青みを帯びたものが多かった。なお,この区間には二次生成物はあまり発達しておらず,わずかにフローストーンが見られるだけであった。
迷いの十字路を過ぎるとそれまでの比較的乾いた雰囲気から一変して,洞床に水流が現れるとともに,二次生成物が豊富になった(写真6:変わった形の二次生成物,写真7:洞床に現れた水流)。
ビーナスの門付近は一面の見事なフローストーンで,フローストーンを伝って落ちてくる水もかなりの量であったことから,今なお成長中であると考えられた。
ビーナスの門を過ぎるとリムストーン・プールの神秘の泉(写真11),水たまりの天井の低い通路(写真12),ナチュラルブリッジ(写真13,14)を経て,大広間へと到着した。
大広間は約15m(幅)×20m(奥行)×25m(高さ)くらいの空間で,多数のつらら石,石筍並びにストローがみられ,フローストーンを含めた二次生成物が豊富であった。
大広間から鉄梯子を登ってしばらく行くと水量の豊富な水流部となり,数ヶ所に小規模な滝も見られ,水流部のトラバース及びチムニークライミングを行いながら進むことになった(写真19)。二次生成物としては両壁の大規模なフローストーン(写真20)が見事であった他,先端から勢いよく水を滴らせているつらら石(写真21)や,ヘリクタイトを含んだつらら石(写真22),かぼちゃ型の石筍(写真23),アメーバ様の二次生成物(写真24),赤い色をしたフローストーン(写真25)等が見られた。なお,途中の足元には残念ながら折られた形跡のある直径10cm程度の石筍跡(写真26)があった。
大滝は落差約15mで,梅雨時という事もあってか水量はかなり豊富であった(写真27,28)。大滝のあるホールにはフローストーンが豊富に見られたが,脆いものが多く,これまでに見られたものとは成分的に異なると思われた(写真29,30)。
大滝から少し戻った地点より右手に入ったところにある青岩氷河(写真31)は,斜面を一面に覆った純白のフローストーンで,非常に脆い白色の粒子(石膏?)で構成されていた。 さらに奥に進むとメルヘンランドと呼ばれる地点に達し,足元には澄んだ水を湛えたプール(写真32)が見られた。二次生成物としてはフローストーン,つらら石(写真33),石筍(写真34),ストローが多く見られ,左手の洞壁に開いた小穴には,牢屋を思わせる特徴的なストロー群(写真34)が見られた。 メルヘンランドより先は上層にて大広間上部に達していると思われたが,縦穴装備が必要となるため,途中で引き返し,往路を戻る経路にて洞外へと出た。
青岩鍾乳洞の洞内には鍾乳石や石筍,ストロー,リムストーン,フローストーンなどの二次生成物が非常に良く発達している。特に「ビーナスの門」や「青岩氷河」のフローストーンはとても素晴らしい。「青岩氷河」は真っ白なため,本当に氷河のようだった。これは,地質的に不純物が少なく炭酸カルシウムの純度が高いためと思われる。また,比較的閉塞型の鍾乳洞であり,最奥部の「大滝」付近以外は,外部からの土砂の流入がほとんど無いためでもあるようだ。さらに,現在は洞口を閉鎖して学術調査目的のみ入洞を許可しているため,二次生成物の保存状態は極めて良い。10.所感
また,青岩鍾乳洞は,東京都の水源保全地域でもある青岩谷川沿いにあって水量が豊富なため,まだ成長期にあると思われる。今年は雨が多かった影響もあるようで,いたるところの壁から水が流れていたり,天井から水がしたたり落ちていたりした。
今回は洞内に4時間弱滞在したが,「白亜の間」や「シンフォニーの谷」などの二次生成物は調査できなかった。今度行く機会があれば,このあたりもぜひ調査してみたいと思う。
今回,参加者各自の都合から二名のみが三条の湯に前泊,それ以外は当日の未明に出発しての参加であった。林道終点からの所要時間を考えると朝早く立てば前泊なしでもOKと思われるが,できれば三条の湯に前泊して体力を温存並びに情報の整理をしておいたほうが良いと思われる。
洞口までの道は各所で荒れていたが,洞内はその苦労を補ってあまりある素晴らしさだった。個人的には,これまで行った数々の鍾乳洞の中でベストと言っても過言ではない。青岩鍾乳洞は,規模としては奥多摩の日原鍾乳洞と並び関東一といっても良い。洞窟そのものの難易度はさほどでも無いと思われたが,大広間より奥は水流沿いのトラバースや,簡単な滝登りやチムニークライミングの技術が必要になる場所が多かった一方で,生成途中にある洞窟の変化に富んだ姿を目の当たりにすることができた。 特に最奥部の落差15m以上の水量豊富な「大滝」や,メルヘンランドに至る途中の「青岩氷河」は感動的ですらあった。
この後,「メルヘンランド」を通過し「大広間」へと戻ろうとしたが,大広間側の出口が天井近くの非常に高い所にあり,また,何人かは全身ズブ濡れでかなり体力を消耗していたために「青岩氷河」まで引き返し,行きに通った水流沿いの通路を通って出洞した。
なお,私を含めた数人は水対策を怠ったために後半では全身濡れてしまい,とても寒かった。低体温症で動けなくなる恐れもあったので,レインギアなどの水対策が必要と痛感した。もっと事前に情報を収集しておくべきと反省すると共に,今後の活動に際しての貴重な体験となった。
最後に,快く入洞を許可して頂いた三条の湯の方々に感謝すると共に,今後とも洞内の環境が良い状態に保たれることを切に望みます。